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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)837号 判決 1960年8月30日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人池田純亮の上告理由について。

論旨は、要するに、遡らしめた日を売渡期日として掲げた本件農地の売渡計画、したがつてこれに基くその売渡処分は、当然無効であるとの主張に帰着する。

そもそも、自作農創設特別措置法が「売渡の時期」を定めた農地売渡計画を樹立し、これを公告すべきこととした(第一八条)法意は、売渡に伴う権利関係の変動が売渡計画中に掲げられた「売渡の時期」を基準として惹起さるべきことを関係人に予告し、これにより関係人に不測の不利益を及ぼすことを防止し、売渡に伴つて起る権利関係の変動が円滑に実現せられることを期するにあるものと解すべきである。この法意にかんがみれば、同法は、売渡計画中に掲ぐべき「売渡の時期」としては売渡計画樹立後の日時を予想しているものと解すべきであつて、売渡計画樹立前に遡及せしめた日時を「売渡の時期」として掲げることは、違法となすべきである。

しかし、そのことから直に、かかる売渡計画を以つて、論旨主張の如くに絶対無効と解することを要するものではなく、またかかる農地売渡の時期をその売渡計画に掲げることが、法律的に何等の意味をも持たないと解することを要するものでもない。蓋し、かかる農地売渡処分は、売渡通知書交付の時に売渡の相手方に農地の所有権を移転すると同時に当該農地の上の権利を一切消滅せしめるものとして有効であり、また農地売渡の時期を遡及せしめて掲げることは、国とその売渡の相手方との間においては、第三者の権利を害しない限り、過去の一時点以降農地の所有権が売渡の相手方に既に移転して居つたと同様の取扱をなすべき趣旨において有効であると解すべきものである。

されば、農地売渡計画にその売渡の時期として過去の一時点が掲げられて居つても、これによつて遡及的に第三者の権利を害する事態を招来する恐れはなく、したがつて、遡及的に第三者の権利を害した事実の有無を論ずるまでもなく、本件農地売渡処分は当然無効のものではないとなさねばならない。

原判決は結論において以上と同趣旨に出で居るのであつて、論旨は、結局理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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